コラム

アイドルとしてではなく一人の農家として

その可愛らしい容姿から、「福島の農業を背負うアイドル」として注目を集めてきた福島県西会津町の渡部佳菜子さん(26)。農業1年目の彼女にとっては震災、風評被害、増幅していくメディアへの露出と期待の高まりを受け止め切ることはとても困難でした。東北食べる通信3月号では、7年間の葛藤の日々と、これから地域の人々と一緒に歩もうとしている姿を特集します。

成影沙紀文=成影沙紀写真=成影沙紀|2018年03月01日

福島のアイドル

「福島の農業を背負う農業女子!」

東北食べる通信3月号で特集する、福島県西会津町の渡部佳菜子さん(26)はまさにその言葉がぴったり似合う女性です。ハツラツとしていてニコッと笑うととっても可愛らしい。アイドルのような存在だなぁ、というのが私の第一印象でした。当初、私たちが渡部さんに出してもらう予定だったのが「雪下キャベツ」。雪の下でじっと春を待つ甘くて柔らかいキャベツが彼女のイメージ通りだと思っていました。

憧れの農家人生は廃棄から始まる

しかし、2回、3回と渡部さんを訪ねるうちに、彼女の別の一面が見えてきました。小学生の頃から父の背中に憧れ、農家になると宣言した少女は、東日本大震災の2日前に就農。原発事故の影響で放射線検査をしなければならず、収穫期を逃した大量のブロッコリーを捨てることが彼女の一番最初の農家としての仕事となりました。震災後は福島のイメージアップに繋がるなら、とPRイベントやメディアなど、出られるものには片っ端から出ました。若くて、可愛らしい彼女は瞬く間に福島のアイドルのような存在になります。しかし、その裏ではアイドルとして扱われることに対する違和感と、自分が農家としてやらなければいけないことが十分にできていないのではないかという不安も膨らみ、葛藤の日々が続きました。

地域と一緒に農業をやっていく

今回特集する食材はキャベツではなく、ウド。
渋い山菜の方が、実は彼女の本当の姿に重なるのです。
6月から、渡部さんはCSAという、野菜の会員制販売サービスを開始します。日本でも少しずつ始まりつつあるCSAですが、渡部さんは自分の農園だけでなく、周りの農家さんたちも一緒に野菜を届けることを選びました。
「私は地域と一緒に農業をやってきたんです。CSAを始めるにあたって、自分だけ目立つというのは考えられませんでした。みんな一緒に良くなっていきたい。私は震災を期にたくさんマルシェにも参加させてもらって、直接自分の野菜を買ってくれるお客さんと出会いました。自分の野菜を食べてくれる人と出会う喜びを、私以外の作る人にも感じて欲しいんです」と彼女は語ります。

山菜ならではの渋みがありながら、まだまだ雪が解けない西会津に春を運んでくるウドが、アイドルではない渡部佳菜子という一人の女性にはぴったりなのです。東北食べる通信3月号、どうかお読み逃しなく。

成影沙紀

成影沙紀

京都府宇治市出身。大学時代に東北食べる通信・編集長の高橋に出会い、彼が語る農家漁師の姿に惚れ込み、そのまま購読。1年の東京での武者修行を終え、夢だった東北食べる通信のスタッフになる。新しい生産者に会いに行く特攻隊長。