ほどほどなるままに

数学する身体

文=daily|2018年03月01日

森田真生の『数学する身体』を読んだ。題名に一目惚れして本屋で衝動買いしたのだが、題名から直感していた通りの結論であった。多変数解析関数の分野の3大問題を独力で解き、世界を驚愕させた天才数学者、岡潔の人生を辿る旅は刺激的だった。畑を耕し、念仏を唱えながら、最難関の「ハルトークスの逆問題」に田舎で向き合った岡だったが、彼を偉大な発見に導いたのは、なんと松尾芭蕉だった。時間や空間、自他の区別から心を解き放った芭蕉の存在そのもの以上に優れたアルゴリズムはないと気づいた岡は、情緒を中心とする数学を打ち立て、誰も見ることができなかった頂の風景に到達したのである。晩年、「自我」と「物質」を中心に据える現代の人間観、宇宙観を痛烈に批判し、生きる喜びも本当は周囲や自然や環境から与えられるものであって、自力でつくり出せるものではないと学生たちに熱心に説いた。コンピューターと人工知能の産みの親であるアラン・チューリングとの共通点は数学で心の究明に向かったことであり、その方法が違ったとチューリングの限界を指摘して本書は終わる。自我と人工知能という狭い世界に心を縛られている若者に、是非、読んでもらいたい。

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