レポート

75歳のカニ漁師に会いに行く − 真冬の生産者開拓レポート

東北食べる通信で、将来特集する生産者を見つける旅のことを「生産者開拓」と呼んでいます。生産者開拓のために真冬の東北を走り回る日々。今回は青森に春を告げるカニ“花見蟹”の漁師を訪ねて青森県野辺地町まで行って来ました。そこで出会ったベテラン漁師のおはなし。

成影沙紀文=成影沙紀写真=成影沙紀|2018年02月13日 青森県野辺地町

花見蟹漁師を求めて一路青森へ

青森県野辺地(のへじ)町にやってきました。花見のお供といえば?花見団子?おにぎり?青森の人にとってのそれはなんと“カニ”。ちょうど花見の時期に出回ることから花見蟹(はなみがに)と言われている。小ぶりな毛ガニの一種だ。青森県人が楽しみにしているのは身ではなく、卵らしい。小さな体にいっぱい卵を抱いたメスが人気で、弘前の花見会場では茹でたものが売られているのだとか。ちなみに、北海道の毛ガニは資源保護のためメスを獲ることは禁止されているので、そういう意味でもメスの毛ガニは希少価値が高い。東北食べる通信でもいつかこのカニを特集できないかと画策中で、今回は深浦の漁師さんに紹介してもらった漁網屋さんにさらに紹介してもらい、むつ湾に面した野辺地漁協へ。

世界の海を股にかけた男

むつ湾の海岸線にはぎっちりと小さな小屋と漁船が並んでいる。その中の一つに皆川さんはいた。オン年75歳のベテラン漁師。18歳からトロール船に乗り、北はアラスカ、南はチリまで行ったという文字通り世界を股にかけた男。私に椅子を勧めながら自分はずっと立ったまま熱心に話してくれた。

「今はナマコをとってるんだよ。メスガニは俺は4月10日から網をかけて、5月20日ぐらいまで獲る。メスガニの旬が年々早くなってて、花見の時期(ゴールデンウィーク)までなくなるんじゃないかってとこまで来てる」。海水温が上昇していること等に起因しているという。悲しいことに、皆川さんのお話は方言が強くほとんど聞き取れなかったが、なんとか聞き取れ、彼が何度も繰り返していた話がある。

「ナマコが高く売れるからってよぅ、みんなずっと(長い期間)採ってるけど、本当は3月で終わりですって一斉にやめねぇと、カニの旬を逃しちまうよぅ。」近年ナマコが中国に非常に高値で輸出でき、しかもナマコ漁の方がカニ漁よりも圧倒的に楽なので、みんなカニそっちのけでナマコを獲るのだという。中国ではナマコが漢方として人気が高く、経済成長によってナマコを購入できる富裕層が増えたため需要が拡大しているのではないかと漁協の方は話していた。

カニよりナマコ?

高く売れ、楽に採れるので、漁師にとってはナマコ様様なのかと思ったが、皆川さんはなぜかその傾向に憤っていた。漁協の方と伺っていたため、30分そこそこでその場を離れなければならなかったが、あと5時間皆川さんの話を聴き続ければ、きっと彼の言葉に耳が慣れ、ナマコ漁に対する憤りの意味や、彼の漁民としての長い歴史を知ることができたと思い、とても後ろ髪引かれる思いがした。帰り際に「俺の言葉わかったか?早口だからわかんねぇべ?」とニカッと白い歯をのぞかせた。え!わからないってわかってるならもっとわかりやすく話してよ〜!!

漁民の仕事とプライド

東北食べる通信は若手が少ない一次産業の現場で奮闘する若手を取材することが多い。しかしなんだか、こういう時代を背負って来た人もたまらなく魅力的。75歳の漁民は、今でもカニ漁に使う80kgのカゴを海に投げ入れ、引き上げる作業をしている。むつ湾ギリギリに迫る小屋は漁師たちの作業小屋で、そこからまるで家の前に車を停めるように泊められているのは彼らの船。一分一秒でも早く海に、と言わんばかりの位置にある。皆川さんは船を見せてくれながら言った。

「この船で夏は夜中の1時、2時に出て行くんだぜ」。この船は皆川さんの手足のように、思いのままに陸奥湾を歩くんだろうなぁ。外から見るだけでは寂れた漁師町だが、確かにそこには漁民のプライド、彼らの仕事があり、その格好良さにしびれた。花見蟹を特集できるのはまだまだ先になりそうだが、皆川さんの話を聞きにまた来たい。今日は頂いた二杯の花見蟹が夕食です。

成影沙紀

成影沙紀

京都府宇治市出身。大学時代に東北食べる通信・編集長の高橋に出会い、彼が語る農家漁師の姿に惚れ込み、そのまま購読。1年の東京での武者修行を終え、夢だった東北食べる通信のスタッフになる。新しい生産者に会いに行く特攻隊長。